映画『タクシードライバー(Taxi Driver)』(1976年)で、ロバート・デ・ニーロ演じるトラヴィス・ビックルが着ているのは、第二次世界大戦期の米陸軍「JACKET, COMBAT, WINTER」をベースにしたタンカースジャケットの後期型(2nd Model)です。
1942年に改訂された「P.Q.D. Spec. No. 26A」に相当するデザインで、斜めに切り込まれたスラッシュポケットが特徴です。
トラヴィスが着ているタンカースジャケットの詳細
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | JACKET, COMBAT, WINTER(冬季戦闘用ジャケット) |
| 通称 | タンカースジャケット |
| ベースとなったモデル | 2nd Model(後期型) |
| 軍規格 | P.Q.D. Spec. No. 26A |
| 規格改訂 | 1942年3月26日 |
| 開発・使用軍 | アメリカ陸軍 |
| 表地 | コットンツイル |
| 裏地 | ウール |
| ポケット | 左右2つのスラッシュポケット |
| フロント | ジッパー開閉 |
| 襟・袖口・裾 | ウール製ニット |
タンカースジャケットは、1941年に米陸軍の機甲部隊向け冬季戦闘服として採用されたジャケットです。
戦車内部の限られた空間でも動きやすいよう、装飾の少ないシンプルな構造が採用されました。
当初は戦車兵向けでしたが、第二次世界大戦中には歩兵や航空隊員などにも着用されています。
1942年型 後期タンカースジャケットの根拠
判断の根拠は、フロントポケットの形状です。
米陸軍のタンカースジャケットには、1941年の初期型と1942年に改訂された後期型があります。
| 比較項目 | 初期型(1st Model) | 後期型(2nd Model) |
|---|---|---|
| 採用年 | 1941年 | 1942年 |
| 軍規格 | P.Q.D. No. 26 | P.Q.D. No. 26A |
| ポケット | 外付けのパッチポケット | 切り込み式スラッシュポケット |
| 襟 | ニット | ニット |
| 袖口・裾 | ニット | ニット |
| フロント | ジッパー | ジッパー |
| 背面 | アクションプリーツ | アクションプリーツ |
| トラヴィス着用モデルとの外観の一致 | × | ○ |
初期型のポケットは、生地の表面に別布を縫い付けたパッチポケットです。
一方、1942年の「P.Q.D. Spec. No. 26A」では、ポケットが斜めに切り込まれたスラッシュポケットへと変更されました。
映画のトラヴィスが着ているジャケットにもスラッシュポケットが確認できるため、後期型のデザインと判断できます。
なお、初期型から後期型への移行ではジッパー裏の防風フラップにも変更が見られますが、この部分は初期型の製造途中にも改良が行われています。型を判別するうえでは、ポケットの形状が明確な違いです。
基本となる後期型の形状は、次の製品写真で確認できます。
米陸軍 WWII 後期型タンカースジャケット(実物)|WAIPER公式
トラヴィスのタンカースジャケットにある3つの特徴
左袖の「King Kong Company」ワッペン
左袖上部には、キングコングの顔と「KING KONG COMPANY」の文字が入った円形のワッペンが縫い付けられています。
実在した米軍部隊の正式な部隊章としては確認されておらず、映画のために用意された架空の部隊章と考えられます。
右胸のパラシュート章
右胸には、オリーブ色の生地に翼とパラシュートを黄色で刺繍した長方形のワッペンがあります。
これは米海軍・海兵隊のパラシュート降下資格章をモチーフにしたものです。
米海軍・海兵隊のパラシュート章は実在する徽章であり、スミソニアン国立航空宇宙博物館にも実物が収蔵されています。
ただし、劇中で使われた布製ワッペンと軍の正式な徽章は区別する必要があります。
背中の「BICKLE.T」のステンシル
ジャケットの背面上部には、トラヴィスの名前を表す「BICKLE.T」の文字が黒く入っています。
米陸軍の標準仕様として付いているものではなく、映画衣装を特徴づける個別のマーキングです。
映画で使用されたジャケットは米軍の実物なのか?
ここは区別が必要です。
トラヴィスのジャケットは、1942年型の米陸軍タンカースジャケットと外観が一致しています。
しかし、映画撮影で使われた衣装そのものが第二次世界大戦中に米軍へ支給された実物なのか、当時の民生品または映画用衣装なのかは、確認できる資料だけでは断定できません。
映画で使用された衣装は、脚本家ポール・シュレイダーによって2006年にテキサス大学オースティン校のHarry Ransom Centerへ寄贈されています。
同センターでは、実際にロバート・デ・ニーロが着用した衣装の写真も公開されています。
したがって、正確には「1942年型の後期タンカースジャケットをベースにした衣装」と説明するのが適切です。
タクシードライバーのタンカースジャケットを復刻したブランド
トラヴィス・ビックルが着ていたタンカースジャケットに関連する復刻品として、トイズマッコイとバズリクソンズがあります。
トイズマッコイ(TOYS McCOY)
トイズマッコイは、映画『タクシードライバー』の正式ライセンスを取得し、実際に撮影で使用された衣装を調査して復刻しています。
左袖の「KING KONG COMPANY」ワッペンや右胸の刺繍章、背面の「BICKLE.T」のステンシルなど、映画特有のディテールも再現しています。
代表的な品番は「TMJ2515 TAXI DRIVER WINTER COMBAT JACKET TANKERS」です。
バズリクソンズ(BUZZ RICKSON’S)
バズリクソンズは、第二次世界大戦中に米陸軍で使用されたタンカースジャケットを復刻しています。
劇中のトラヴィスが着用したジャケットと同じ後期型に相当するのが、スラッシュポケットを備えた「Type TANKERS SLASH POCKET」です。
2026年モデルの品番は「BR15755」。コットンツイルの表地、26オンスのウール裏地、ニット製の襟・袖口・裾など、軍用ジャケット本来の構造を再現しています。
通常仕様には映画のワッペンやステンシルは付いていません。
映画と同じタイプのタンカースジャケット
映画と同じ基本形状を確認する場合は、1942年型の後期タンカースジャケットが該当します。
米陸軍のオリジナル仕様を再現した復刻品と、映画独自のワッペンやステンシルまで再現した映画仕様の復刻品は異なります。
基本となる後期型の形状は、次の製品写真で確認できます。
米陸軍 WWII 後期型タンカースジャケット(実物)|WAIPER公式
HOUSTON 5B-1X タンカースジャケット後期型(復刻品)|WAIPER公式
いずれも後期型の形状を確認するための参考リンクです。トラヴィスのワッペンを備えた映画衣装そのものではありません。
まとめ
映画『タクシードライバー』(1976年)でトラヴィス・ビックルが着ているタンカースジャケットは、米陸軍の1942年型「P.Q.D. Spec. No. 26A」をベースにした後期型のデザインです。
判断の決め手は、前面のスラッシュポケットです。
また、左袖の「King Kong Company」、右胸のパラシュート章、背面の「BICKLE.T」という3つの装飾が、映画衣装としての特徴になります。
軍用ジャケットとしての基本形状と、映画独自の装飾を区別すると、トラヴィスが着用したモデルの特徴を把握できます。
参考資料
- Smithsonian National Museum of American History — Jacket, Combat, Winter; Model 1942
- History Preservation Associates — U.S. Army 1942 2nd-Model Tanker Jacket
- At The Front — 1st Model Tanker Jacket
- Harry Ransom Center — Materials from Paul Schrader Collection
- BAMF Style — Taxi Driver: Travis Bickle’s Tanker Jacket
- Smithsonian National Air and Space Museum — Navy/Marine Corps Parachutist Badge



